近年の抗HIV治療の進歩について思うこと
今回は個人的興味で調べたHIV治療に関する記事です。
きっかけは2018年12月現在公開中のボヘミアンラプソディーを観たこと。
ご存知の人も多いかと思いますが、
クイーンのボーカルのフレディ・マーキュリーはAIDSで亡くなったとされています。
ちょっと雑記ブログみたいな感じですが、ご興味ある方はどうぞ。
最近のBGMはクイーン一色のミーハーなわけですが、ボヘミアンラプソディーをきっかけに最近のHIV/AIDS治療について少しまとめて見ました。
この領域の治療はものすごく進歩していますね。慢性疾患という認識を社会が認知するまではもう少しかもしれません。https://t.co/ocJZldmxNC— ケースケ (@Keisukemrlifeh1) December 28, 2018
※若干映画のネタバレを含みますので、嫌な方は目次二番目の「HIV患者の動向」までお進みください。
AIDSとは?
後天性免疫不全症候群(こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん、英語: Acquired immune deficiency syndrome, AIDS(エイズ))
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が免疫細胞に感染し、免疫細胞を破壊して後天的に免疫不全を起こす疾患。
ボヘミアンラプソディーからみるAIDS
映画のワンシーンで、フレディがバンドメンバーにAIDSであることを告白するシーンがあります。
メンバーは涙ぐんだり、肩を叩いたり、反応はそれぞれですが、
少なくともこの描写は「治らない病=死」を容易に連想させるものです。
映画中でも、診断した医師は「治療法はあるにはあるが…」と積極的ではなく、
当時はただ死を待つ病とされていたことがよくわかる描写です。
フレディがAIDSと診断されたのは1987年、39歳の時とされています。
おおよそ30年前は治療法が乏しく、AIDSはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)によって
引き起こされる病気ということがやっと判明したという時代でした。
ちなみにですがフレディがクイーンとしてライブエイドに出演したのが1985年、
診断は1987年なので、ライブエイド前の告白は演出なのでしょうね。
そしてAIDSだということはメディアの前では語らなかったともされています。
まぁ僕は正直クイーンマニアとかではないので、その辺を差し置いても良い映画でした。
現在のHIV患者の動向
身近な例として日本での感染者数の推移は以下の通りです。
国立感染症研究所ホームページ
日本でも2000年ごろから感染者数が急拡大し、
10年ほど前からやっと横ばいになってきたところです。
HIV患者数、ならびにAIDS発症者数を累積すると、おおよそ25,000人ぐらいが、
HIV感染、治療を受けていると推察されます。
なお世界的な状況は以下の通りです。
JaNP+
※JaNP+はHIV陽性者の患者団体NPO法人です。
HIV陽性者の人数は右肩上がりで4,000万人に迫る勢い。
新規発症者はおよそ180万人程度と予想されています。
地域別にみると圧倒的にアフリカ地方が多いです。
世界的にはHIV陽性者は局在し、公衆衛生の発達に伴い感染者数は減っているものの、
治癒ができないため患者数が増えていっているという状況です。
「AIDSで亡くなる」は過去の時代に?
日本でも増え続けているHIV陽性患者数ですが、現在はどのような状況なのか?
現在は抗HIV治療の開発が進み、治療を受ければAIDSを発症しない=死ぬことがない、
という認識に変わってきました。
※引用元は先ほどと同様のリンクです。
JaNP+
これらのデータからHIVと診断がついたとしても、
きちんと抗HIV治療を行えばAIDSを発症することなく生活できる時代になっています。
フレディが亡くなった時代から、この30年で治療は確実に進歩しているのです。
HIV治療ガイドラインより
ここから先は下記リンク先のHIV治療ガイドラインから引用しています。
抗HIV治療ガイドライン(2018年3月改訂)版より
https://www.haart-support.jp/pdf/guideline2018r2.pdf
治療目標について
キーワードとしては「HIV RNA量」と「CD4陽性Tリンパ球数」です。
診断された直後はインフルエンザのような症状が現れるそうです。(急性感染期)
HIVウイルス(本来であればHIVそのものにウイルスの意味を含みますが、便宜上この表記とします)
は免疫が働かないから不治の病、というイメージがあるかもしれませんが、
ウイルスなので当然免疫機能は働いてHIVウイルスは減少していきます(無症候期)
しかしながらHIVウイルスが増えてくるにつれCD4陽性Tリンパ球が減少し、
免疫機能が破綻、後天性免疫不全症候群=AIDSとなるのです(AIDS発症期)
ガイドラインにおける治療目標は、CD4陽性Tリンパ球数の減少を食い止めること、
すなわちHIVを薬で押さえつけ続けることです。
抗HIV治療薬について
現在使用できるHIV治療薬は以下の表の通りです。
めちゃくちゃありますね(笑)
この中から数種類組み合わせて服用するというのが基本治療とされています。
ガイドライン上推奨されている組み合わせは以下の通りです。
(記号だらけでちょっとよくわからなくなってきました…)
大部分のHIV感染者に推奨される、かつA1とされている組み合わせが、
ゲンボイヤ®︎配合錠(鳥居薬品)とトリーメク®︎配合錠(ViiVヘルスケア)です。
恐らくはこの2剤が中心的レジメンとして使われているのでしょう。
HIV領域に参戦しているのはどこの会社か?
ちょっと話題それますが、ゲンボイヤ®︎とトリーメク®︎の2強体制、
…と思ったのですが必ずしもそうではないようですね。
鳥居薬品決算、ViiVヘルスケア社のグローバル売り上げ等見るに、
まずキードラッグとしての実績はテビケイ®︎が普及しているようです。
ついて鳥居薬品さん、ゲンボイヤ®︎がトップかなと思いきや…おっと、デシコビ®︎配合錠がトップですね。
ということはテビケイ®︎+デシコビ®︎の組み合わせが多いのでしょうか。
このようにHIV領域はキードラッグと呼ばれる薬剤を1剤(INSTI,PIから1剤)、
バックボーンと呼ばれる薬剤から2剤組み合わせるのが一般的とのことです(NRTIから2剤)。
(デシコビ®︎は2剤配合なので、テビケイ®︎+デシコビ®︎で3剤併用ですね)
そんなHIV領域で存在感を出していた鳥居薬品さん。
来年からHIV領域の製品は製造元のギリアド社へ移管することが決定しています。
売上高でおよそ200億円、ライセンスを得るためにギリアド社が支払った金額はおよそ650億円です。
かなりの金額を支払ったと思いますが、C型肝炎治療薬で日本法人を立ち上げたので、
今後は全ての製品を自社展開していくつもりなのでしょう。
そして恐らくは、海外ですでに承認されているBiktarvyの発売を見据えてかと思われます。
このBiktarvy、予想売上高は世界で6billion$とされています(日本円でおよそ6,600億円)
もちろん市場環境が違うので、日本での売り上げはまだ未知数ですが、
JTに支払った契約解消金をペイできるほどの相当に自信がある製品なのでしょう。
ケースケの考えるHIVのこれから
ここからは完全に私見です。
HIV陽性と診断された人たちは、薬を飲むことで健常人と変わらない生活を送れるようになりました。
その昔は両手いっぱいに服用していた薬剤も、
今は開発が進み1日1錠で治療が行えるようになっています。
30年前からすると非常に大きな進歩です。
なぜなら当時は治療法がない=死を待つ疾患として捉えられていたのですから。
現代でHIV感染とカミングアウトしても、
映画のあのシーンのようなことにはならない時代がきています。
HIVは過去のイメージと、性感染症にカテゴライズされることから、
高血圧や糖尿病などの慢性疾患とはすこし区別されて見られがちです。
ただ長く薬と付き合って、病気をコントロールしていくという意味では、
慢性疾患と同様に考えることができる時代になったのだと思います。
人類はこうしてまた一つ、病を克服していくのかもしれません(少し大げさですが)
同時にHIVは空気で不活化し、空気感染はしないことでも知られています。
ウイルスとしては非常に脆弱で、日常生活を送る上でほぼ感染のリスクはないそうです。
こうした知識をもっと広めていく必要があるかもしれませんね。
まとめ
・世界的にHIV患者新規感染者は減少するも、治癒はできず患者数全体は増えている
・HIVはきちんと治療することでAIDSの発症を抑制できる=不治の病からの脱却
・ボヘミアンラプソディーは素晴らしい映画でした(これが言いたかっただけかもしれない)
30年前は誰も助からない病気だったAIDS(HIV感染)が、
今は死亡者数の方が少ない疾患になりました。
とは言っても治癒はまだ見込めないため、各社治癒を狙った治療法を開発中です。
オンコロジー以外の領域もどんどん進歩していると感じさせられた記事でした。
-
前の記事
【新人MRマニュアル】認定試験後から始める来年の準備-ABC分析- 2018.12.13
-
次の記事
【MR向け読書のススメ】タイプ別オススメの書籍紹介 2019.01.06
コメントを書く