【画期性加算5剤一覧】加算取得への遠い道のりとは

【画期性加算5剤一覧】加算取得への遠い道のりとは

2019年8月28日の中医協総会で、注目の新薬の薬価収載が了承されました。

日本において薬価は公定価格であり、製薬企業の提出資料をもとに

国(厚生労働省)が決定する価格です。

今回は注目の新薬と、その算定過程における加算について。

特に加算の大きい画期性加算について、今までどんな薬剤が加算対象であったのか?

この辺り書いていきたいと思います。

2019年の8月28日で、新薬12成分17品目の薬価収載が了承されました。

すでに発表されている情報ので、詳細については下記の記事も参照ください。

今回収載された薬剤のうち、私見ですがオンパットロ®︎とコラテジェン®︎は

画期性加算が適用されるのではないかな?と思っていました。

結論から言うと2剤とも画期性加算対象ではないという状況でした。

(オンパットロ®︎-有用性加算40%, コラテジェン®︎-加算なし)

新薬薬価算定時の加算についておさらい

まず新薬がどのように算定されるのか?

これについては厚生労働省の資料が公開されていて、詳しいのでこちらを参照ください。

ざっくりした説明ですが、

  1. 審議される新薬に類似した薬剤がすでに発売されているか?
  2. 発売されている場合、対象薬と比較してどんな点が優れているか?
  3. 対象薬の薬価を基本として、審議薬が優れている場合は加算が入る
  4. 中医協総会の了承を経て、薬価収載→発売の流れ

今回はこの加算の中でも「画期性加算」について少し書いていこうと思います。

 

過去画期性加算が算定された薬剤一覧

2019年9月現在、この画期性加算が算定された薬剤はなんと5つしかありません。

それだけ要件が厳しく、裏を返せば客観的にその薬剤が評価されたということでもあります。

過去画期性加算を算定された薬剤は以下の5つです。(発売順)

・免疫抑制剤「プログラフ」(一般名・タクロリムス)アステラス製薬
・脳保護薬「ラジカット」(一般名・エダラボン)田辺三菱製薬
・抗真菌薬「ファンガード」(一般名・ミカファンギンナトリウム)アステラス製薬
・C型肝炎治療薬「ソバルディ」(一般名・ソホスブビル)ギリアド・サイエンシズ
・抗ウイルス薬「プレバイミス」(一般名・レテルモビル)MSD

プレバイミスは2018年5月に発売した新薬でまだ市場でも新しい薬剤ですが、

他4剤は、各薬剤適応を有する領域でいずれも高い評価を受けている薬剤です。

自分が取り扱ったことなくても、現在でも治療のメインとなっている薬剤のため、

製品名ぐらいは聞いたことがある薬剤が並んでいるのではないでしょうか?

 

画期性加算取得薬剤概要

プログラフ®︎(タクロリムス)

発売日:1993年6月

効能又は効果

○ 下記の臓器移植における拒絶反応の抑制

腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植

○ 骨髄移植における拒絶反応及び移植片対宿主病の抑制

○ 重症筋無力症 ○ 関節リウマチ(既存治療で効果不十分な場合に限る)

○ ループス腎炎(ステロイド剤の投与が効果不十分、又は副 作用により困難な場合)

○ 難治性(ステロイド抵抗性、ステロイド依存性)の活動期 潰瘍性大腸炎(中等症~重症に限る)

○ 多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎

言わずと知れた免疫抑制剤の代表格ですね。

2008年に米国での特許が切れるまでは、

アステラスのグローバル品目でもっとも高い売り上げを誇っていた薬剤です。

世界の地域別で見ても、50-60%のシェアを獲得していることから、

世界で最も使われている免疫抑制剤でしょう。

2008年8月のアステラスの決算資料がネットに落ちていたので、

興味がある方はご参照ください。

なお日本国内でプログラフ®︎が収載された時の画期性加算は、

要件は同一なものの加算は20%止まりだったようですね。(平成5年収載)

それにしても当時の有用性加算が3%とは…厳しいような気もしますが…

ラジカット®︎(エダラボン)

発売日:2001年6月

【効能・効果】

1. 脳梗塞急性期に伴う神経症候,日常生活動作障害,機能障害の改善

2. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制

こちらも脳梗塞時の脳保護として定番の薬剤です。

2011年に特許満了を迎え、ピークセールスは280億円ほどと報告されています。(2010年度決算資料より)

田辺三菱さんの代表的薬剤、レミケードに次ぐ売上がありました。

このころの画期性加算の算定率は40%だったようですね。(平成13年収載)

(元資料はプログラフ®︎のものと同一です)

ファンガード®︎(ミカファンギンナトリウム)

発売日:2002年12月

【効能・効果】

アスペルギルス属及びカンジダ属による下記感染症

真菌血症、呼吸器真菌症、消化管真菌症 造血幹細胞移植患者におけるアスペルギルス症及びカンジダ症の予防

初のキャンディン系抗真菌剤ですね。

画期性加算60%を取得しています。

2002年のミクスオンラインに記事が掲載されていたので、以下引用します。

中医協 ファンガード「画期性加算」で薬価収載へ

厚労省は11月27日、中医協総会を開き、医薬品10成分14品目の薬価収載について承認した。比較薬と比べ「画期性加算」(60%)が認められたキャンディン系真菌症用剤「ファンガード点滴用50㎎」「70㎎」(成分名:ミカファンギンナトリウム)や、AⅡ受容体拮抗型降圧剤として国内4番目の「ミカルディスカプセル20㎎」「40㎎」などが12月6日、新たに収載される予定。ファンガードは藤沢薬品工業の、主にかびに作用する点滴。比較薬であるファイザー製薬のジフルカン注液0.2%(フルコナゾール、薬価50ml1瓶5860円)

なおキャンディン系が適応とする深在性真菌症はそこまで市場がないためなのか、

アステラスの戦略品としては位置付けられていませんね。

2016年度、グローバル主要製品売上高では、およそ400億円の売り上げがあったようです。

ソバルディ®︎(ソホスブビル)

発売日:2015年5月

【効能・効果】

次のいずれかのC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変における ウイルス血症の改善

1.セログループ2(ジェノタイプ2)の患者

2.セログループ1(ジェノタイプ1)又はセログループ2(ジェノ タイプ2)のいずれにも該当しない患者

実に13年ぶりに画期性加算対象となった医薬品です。

医療業界の人なら聞いたことがある薬剤なのではないでしょうか。

ギリアドサイエンシズが日本法人を立ち上げるきっかけとなった医薬品であり、

C型肝炎根治薬として世界的にも注目を浴びた薬剤でした。

加算率も上限にほぼせまるなんと100%!

これも詳しくはミクスの記事を引用させていただきます。

ソバルディ錠400mg(ソホスブビル、ギリアド・サイエンシズ)
効能・効果:「セログループ2(ジェノタイプ2)のC型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善」
薬価:400mg1錠 6万1799.30円(1日薬価:6万1799.30円)
市場予測(ピーク時2年後):投与患者数1.9万人、販売金額987億円
画期性加算(A=100%):加算理由「HCV ウイルス増殖を直接抑制する新規の臨床上有用な作用機序を有すると認められる。本剤はインターフェロン治療で効果不十分又は不耐容患者に対しても高い有効性を示したこと、既存治療法であるテラプレビルを含むインターフェロン治療で懸念される副作用リスクも低いと考えられることなどから、高い有効性、安全性及び臨床上の有用性が示されている。本剤は経口投与のみによる治療を可能とし、インターフェロン治療で一部の患者に必要とされている投与初期の入院等も必須ではないことなどから、治療方法の改善が客観的に示されていると認められる」

根治するってすごいですよね。薬剤費は高額ですが、

その後の肝硬変、肝がんなどの治療も含めて考えれば、妥当な治療費用なのかと思います。

この薬剤の薬価をベースとして、のちに続くハーボニー®︎(ギリアド)が算定されていますが、

同じC型肝炎治療薬のマヴィレット®︎(アッヴィ)は、

同社から発売されているヴィキラックス®︎を類似薬としているようです。

プレバイミス®︎(レテルモビル)

発売日:2018年5月

【効能・効果】 同種造血幹細胞移植患者におけるサイトメガロウイルス感染症の発症抑制

サイトメガロウイルス感染症の発症予防薬として承認されました。

ソバルディに次ぐ5剤目、加算率は75%です。

ただこの薬剤、原価計算方式で収載されているのですが、

企業側の情報開示が50%未満であるということで、加算率は0.2が付いています。

結果、最終的には17%が補正された薬価として収載されました。

この加算率の算定については、

厚労省からでている新医薬品の薬価算定方式のまとめもご覧ください。

恒例のミクスの記事は以下の通りです。

MSDは5月28日、同種造血幹細胞移植患者のサイトメガロウイルス感染症の発症抑制に用いる薬剤プレバイミス錠240mgと同点滴静注240mg(一般名:レテルモビル)を発売したと発表した。サイトメガロウイルスは幼児期に感染し、免疫抑制状態下で再活性化する。免疫が著しく低下する同種造血幹細胞移植患者では再活性化が高頻度にみられ、腸炎、肺炎、網膜炎などの重篤な感染症を引き起こし、死亡することもある。現在、感染が確認された時点で抗ウイルス薬を投与する「先制治療」が中心だが、同剤は感染確認前に予防的に投与する。

同剤は、既存の治療薬とは異なり、サイトメガロウイルスに特異的なウイルスターミナーゼを選択的に阻害することで、ウイルス増殖を抑制する新規作用を持つ。国際共同治験では、先制治療を実施した群と比べて全死亡率を改善させた。また、造血幹細胞移植後の生着に影響を与えず、好中球減少も認められず、既存治療が困難であった生着前の患者に投与でき、治療方法の改善が示されているとして、薬価算定では「画期性加算」が認められた。

薬価は240mg1錠1万4379.20円、240mg12mL1瓶1万7897円。錠剤では、成人には480mgを1日1回投与。シクロスポリンと併用投与する場合には240mgを1日1回投与。 点滴静注製剤では、 480mgを1日1回、約60分かけて投与。シクロスポリンと併用投与する場合には240mgを1日1回、約60分かけて投与する。

情報開示率が低い、というのは企業側の戦略もあるのかもしれません。

全ての情報を開示していれば、75%+市場加算10%を獲得していたものの、

意図して開示していない可能性もあり、そのあたり中医協の議事録にも記録されています。

 

幸野委員
今回行われた薬価制度の抜本改革は、薬価算定における透明性の確保の観点から、開示度に応じて加算率に差を設けるという方式が入ったのですが、4月から適用してみると、4月は3つのうち全て加算係数が0.2で開示度が50%未満、5月は4つのうち、加算係数1が1つ、それ以外は加算係数0.2で50%未満、4月、5月で原価計算方式で算定された7品目中、6品目の開示度が50%未満で加算係数0.2がついているのですが、果たしてこの開示度が企業にとってインセンティブになっているのか非常に疑問に思っていて、今、薬価制度改革前と改革後で価格がどうなっているかと聞いたら、開示度が低いにもかかわらず改革後のほうが割高になっているわけです。では、この開示度に応じて加算率に差を設けることが企業の開示しようとするインセンティブになっていないのではないかという疑問が生じます。おそらく、移転価格であるからなかなか難しいということかもしれませんが、開示しようと思えばできるにも関わらずしないのか、それとも移転価格だからやむを得ず50%未満になってしまうのか、その辺をお聞きしたいのですが、どちらなのでしょうか。

○幸野委員
2月の結果のみで判断することはできないかと思いますが、2月で加算係数1が1つしか出ていないというのは、全体の傾向としてもうあらわれているのではないかと感じています。いずれにしても、この0.2というのは見直す必要があるのではないかと思いまして、企業の戦略として、開示するより、加算係数が0.2でも薬価が10%上がる場合もあるわけですから、あえて開示しないということが行われているのではないかという懸念もあります。今後も結果を把握し、このような傾向が続くのであれば、このやり方は見直すべきだと思います。もう少し、データを累積してから見直しを検討していただきたいと思います。今日は問題提起をさせていただきます。

 

まとめ

・画期性加算取得のハードルは非常に高い

・画期性加算を取得した薬剤は、客観的に評価されたということ→シェアも高かった

・その算定要件は非常に厳しく、ごく限られた一部の薬剤だけが対象となる

この記事を各きっかけになったのはオンパットロが有用性加算止まりだったことです。

同時にコラテジェンも加算なしで収載がされました。

全く新しい作用機序、着眼点の薬剤ですら対象ではなかったことから、

やはり技術力の高い企業が今後も生き残っていくのでしょう…

ケースケでした!