【オンコロジー新薬】XPO1阻害剤selinexorとは?
今回は新しい医薬品の話題について。
Selinexor(KPT-330)という医薬品がFDAに承認申請されました。
この薬剤は世界初となるXPO1阻害剤です。
どんながんにどれぐらい効果があるのか?市場性は?販売会社は?
きっかけは日刊薬業にFDA申請の記事が掲載されていたことなのですが、
新しい機序の薬剤なので少し調べてみました。
Selinexor(セリネキサー)という抗がん剤について少し調べてみました。抗がん剤はどんどん新しい機序の薬剤が開発されてますね。いつか治る時代がくるか?https://t.co/RLL3r1rL6Y
— ケースケ@mr-lifehack (@Keisukemrlifeh1) October 11, 2018
XPO1阻害とは?
Karyopharm Therapeutics社ホームページ
https://www.karyopharm.com/sine-technology/
全くの新しい作用機序です。XPO1と呼ばれる「核外輸送受容体(エクスポーティン)」を阻害することで、抗腫瘍効果を発揮すると考えられています。
これだけ読んで「あぁなるほど!」って人はこの分野の研究者だけでしょう。
僕も詳しいわけでは無いですが、ざっくりいうと、
「がん細胞は都合の悪い因子を細胞外に出す作用があるが、
Selinexorがあると代わりに結合して細胞外に一緒に出てくれる」作用です。
もうちょっと詳しくという人は文献のリンクも貼っておきます。
※かつてXPO1はCRM1と呼ばれていたので、文献のタイトルにはCRM1と書かれています。
・Nuclear export of proteins and drug resistance in cancer
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=22209898
・Prognostic impact and targeting of CRM1 in acute myeloid leukemia
がん抑制因子や細胞増殖制御因子のp53やBRCA1/2,FOXO3,IκBα,Survivinなど、
がん細胞が増えるブレーキになるこれらの因子を、XPO1がどんどん核外へ輸送してしまうので、
がん細胞がブレーキを失って増えていってしまう…
SelinexorはこのXPO1に結合し、細胞外へブレーキが出るのを防ぐ役割があります。
結果、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導するとされています。
多発性骨髄腫に対する効果
Selinexorとデキサメタゾンを併用し、全奏効率21%,治療奏効期間の中央値は5か月とありました。
これ、今使える薬剤すべて使い切った後でも奏効しているというデータです。
具体的には、
4剤耐性(quadレフラクトリー)の48症例、
プロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ)
免疫調整剤(レナリドミド、ポマリドミド)
5剤耐性(pentaレフラクトリー)の31症例
上記4剤+抗CD38抗体薬(ダラザレックス®)
合計79例で検討されています。
参考文献
Selective Inhibition of Nuclear Export With Oral Selinexor for Treatment of Relapsed or Refractory Multiple Myeloma.
ここまで使ってなお奏効するというのは恐るべきデータです。
元々多発性骨髄腫はレスポンスが得られやすい血液がんの一種ですが、
それでも5剤耐性でまだ奏効するなら、当然フロントラインの併用療法が検討されます。
開発会社、日本の販売会社
開発会社はカリオファームセラピューティックというアメリカのバイオベンチャーです。
カリオファーム社ホームページ
開発パイプラインを見るとSelinexorメインですがやはり併用療法の開発が進んでいますね。
機序が異なる薬剤を組み合わせて、より強い奏効を狙うという考えなのでしょう。
パイプラインの表の右側に見慣れた会社のロゴマークがありますね…
どうやら国内の販売は小野薬品が行うようです。
米国カリオファーム社と XPO1 阻害剤「Selinexor」および 第二世代 XPO1 阻害剤「KPT-8602」に関するライセンス契約を締結
プロテアソーム阻害剤のカルフィルゾミブを扱っているので、
戦略的に合致したというところでしょうか。
個人的には、自販してもよかったんじゃないかな…と思ってます。
他がん種への可能性
機序を考えれば他がん種にも効果がありそうですよね。
実際開発パイプラインの所にも、SOLID TUMORとあるので、検証は行っているんでしょう。
ちょっと面白そうな文献を見つけました。
XPO1-dependent nuclear export is a druggable vulnerability in KRAS-mutant lung cancer
患者数の多いがん種の代表格として肺がんがあげられます。
どうやらこの肺がんにも効果を示しそうな基礎実験のデータがあるようです。
特に海外で多いとされるKRAS遺伝子変異を持つ人に効果がある可能性があり、
有望な治療戦略としてまとめられていました。
仮に臨床試験の結果有効性が認められれば、爆発的な需要増が期待できます。
(ヒトでの検証結果ではありません。まだ有効かどうかは報告されていません)
まとめ
今回はXPO1阻害剤のSelinexorを紹介しました。
骨髄腫ではかなりの需要が見込まれますし、他がん種への拡大も期待したいところです。
販売する小野薬品は、がんメーカーとしてさらに大きくなりそうですね。
予想売上は試算されていませんが、ブロックバスターになる可能性もあるかも?
2024年時点の新規作用機序抗がん剤の売上予測はこちらの記事を
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