書評:世界にバカは4人いる DiSC分析®️による顧客アプローチ

書評:世界にバカは4人いる DiSC分析®️による顧客アプローチ

「医師別にアプローチの仕方を変えるよう言われるけど、そもそもどう見分けるの?」

「先生のニーズがわかれば、もっと提案しやすいのになぁ…」

そんな意見を持つ方へ、もしかしたらこのDiSC分析®️によるタイプ分類が、

これらの疑問を解決してくれるツールになるかもしれません。

 

DiSC®️分析とは?

組織力を高めるためのコミュニケーションツールです。
DiSC®は、D, i, S, C の4つの基本スタイルからなる、シンプルで覚えやすいモデルです。DiSC®モデルは、人を否定的に判断しない4つの行動特性(D,i,S,C)を共通言語としています。

※ DiSC®理論に基づく自己分析ツールは、John Wiley & Sons社がコピーライトを保持しています。

D:主導 直接的で決断が早い

“D” は意志が強く、勝気でチャレンジ精神に富み、行動的で結果をすぐに求める傾向があります

i:感化 楽観的で社交的

“i” はいろいろなチームに加わり、アイディアを分かち合い、人々を励ましたり楽しませることを好みます。

S:安定 思いやりがあり協力的

“S” は人助けが好きで、表立つことなく働くことを好み、一貫性があり予測可能な範囲で行動し、聞き上手です。

C:身長 緻密で正確

“C” は仕事の質を高めることを重視して、計画性をもって系統だった手順で作業することを好み、間違いのないように何度も確認します。

引用:HRD株式会社 DiSC®️とは?

DiSC分析とエニアグラムとの違いは?

本書でベースの考え方として採用されているDiSC分析は、「行動分析」とされています。

対して以前紹介したエニアグラムは「性格分析」と言われるようです。

エニアグラムは人が持つ固有の感覚、核となるものですが、

DiSC分析はその行動、振る舞いを分析したものなので、表面に現れやすく、

他者がどのように振舞っているかを見極めやすいのです(4分類しかないですし)

仕事に活かせる心理学-エニアグラムを学んでみよう-

 

例えば、エニアグラム分析は「20歳時点での自分」を思い描いて分析をします。

20歳以下の自分がその人の本質であり、「こうならねばならない」という考えを排除して、

本当にその人の持つ特性を表しています。

客観的に診断ができればどハマりするものの、その診断に要する質問は100近くあることと、

「その人個人でなければわからない」答えが多すぎるため、他人の分析は少し骨が折れます。

 

対してDiSC分析では「その人の行動」に焦点を当てて分析します。

結論を求めたがる、常に笑顔で接する、おっとりのんびりと話す、細かいところまでチェックを怠らない…

こうした人の行動を大別できるとしたら、大きな武器になるのではないでしょうか。

 

これを顧客へのアプローチにも応用できないか

本書ではこの4タイプを色を用いて説明しています。

D=赤タイプの人

i=黄タイプの人

S=緑タイプの人

C=青タイプの人

各タイプ別に行動特性と実例が書かれており、

自分の身の回りの人、会社の人、得意先の医師はどのタイプかな、なんて思いながら読み進めるのをお勧めします。

ちなみにですが、営業の資質があるのは赤色と黄色のタイプと書かれています。

しかし医師はその業務の特性上、青色タイプの方も多く存在し、

「どうもうまくアプローチできない…」と苦手意識を感じる医師は青色タイプかもしれません。

 

赤色タイプの医師に対するアプローチとその特性

このタイプは目標に一直線、外交的で挑戦を好み、決断力は早く、主導権を握り、リスクを恐れない人。

思考スピードと決断が早く、常に自分の判断に自信を持っているタイプ。

赤色タイプの人はとにかくテンポ早く目的のために絶えず決断を繰り返しているので、

自分自身に有益だと判断した新薬は、詳しく紹介せずとも勝手に採用して使い始めます。

正直接しやすいタイプではなく、データの紹介等でアポを取ることも困難なタイプ(断られる)

ただリーダーになる素質は多いため、各施設部長クラスにはこれらのタイプの人がいたりするのです。

 

赤色タイプの医師を例にとりアプローチを考えてみましょう。

・データ紹介時は論点を絞って、時間オーバーはNG。決断、判断は相手に必ず託す。

→大前提としてだらだらとしたテンポの悪い説明は嫌われます。「それ、何が言いたいの?」

とにかく話す内容は一つの話題に集中する。聞きたいことが増えたら、一回まとめてから後で聞く。

時間を超過した面会は嫌われます。時計を見始めたら早々にまとめて退出しましょう。

このタイプの医師はとにかくやることがたくさんあり、スケジュールがぎっちりなのです。

またメリットがあるというこちらの言い分を、正しいものかどうかを即座に判断するのもこのタイプです。

 

・紹介したデータをどう解釈して処方に反映させるか?

→同じデータを複数回紹介しても効果は乏しいです。一撃必殺を心がけて、渾身のストーリーを作成しましょう。

なぜなら面会で思うようにいかず、「この薬剤を使うことはないな」と判断されたらリカバリーが厳しいです。

自社品のメリットは複数カテゴリー分けして用意しておくのも良いと思います。

「こんなカテゴリーがありますが?」→「興味があるのはこれだね」となったらそれだけを話す。

最終決断をするのは赤色タイプの医師自身なので、

「これらのデータからこんなタイプの患者には効果が高いです。ご判断をお願いします」で速やかに退出する。

 

・各種企画についてはどのように考えるか?

→講演演者を積極的に行うタイプの医師ではないものの、環境が変わるとニーズとなりえます。

例えば自分が主導する臨床試験を紹介したい、特定の施設と結びつきが欲しいという「タスク」が生じている場合、

講演会を企画することはニーズとなります。

元々のタイプから要点を絞った、論点のはっきりしたプレゼンになるでしょう。

スライドコントロールはほぼできないと判断しておいた方が良さそうです。昨今のスライドレビューを嫌がり、

自由に話せないのであれば演者を引き受けないなどもありえます。

 

・アポイントをどうしたらもらえるかが工夫ポイント。時間をもらうことが最も難易度が高い。

→自身の判断でスケジュールを詰め込んでいる赤色タイプの人は、とにかくタスクに追われています。

メーカーとの面会時間を確保するのも困難かと思いますが、例えば前述のニーズがある状態での演者依頼など、

とにかく企画関連を結びつけて面会時間を確保するなど工夫しましょう(医師のタスクに入り込む)

 

・なんか不機嫌そうに見える…?

→赤色タイプの人にとって、他人と親しく接することは「タスク」の一つには入りません。

また即座に結論を得たいタイプであることから、要領を得ない面会は嫌われ不機嫌な態度を取られるかもしれません。

言葉少なく、論点をブレずに要点だけ伝える。あとは判断してもらう。そんな接し方が必要でしょう。

プライベートな話題も触れずにいきましょう。彼らはあなたのプライベートにも、もちろん興味がありません。

 

 

黄色タイプの医師に対するアプローチとその特性

このタイプは活力的でおしゃべり、笑顔も多く面会中こちらが話すよりも先にずっと話しているような人。

思考スピードも早く、話すペースが早い。新しいものは積極的に試してみるタイプ。

黄色タイプの人が大切にしているのは人との交流関係。外交的な性格で説得力もかなり強い。

接しやすく積極的に新薬には飛びつく一方、こちらの話を聞いてくれるタイプではありません。

興味があるものにはとことんですが、興味がないもの(データ含む)には見向きもしないタイプです。

とはいえ、影響力のある立場の医師がこのタイプであった場合、

ハマれば一気にインフルエンサーになれる要素があります。

 

黄色タイプの医師を例にとりアプローチを考えてみましょう。

・データを紹介する際、ストーリーを大事に話す。今日面会することでどんな新しい知見が得られるのだろう?

→興味を持った部分のみ深掘りする。スライド1枚目の「臨床試験の概略」あたりを丁寧に話していると、

自分でPCを操作してスライドを送り、結果のスライドとかを勝手に見始めるタイプ。

詳細から入るよりも、キーとなるスライドを2,3枚送りながら

「今日の面会は、こんなデータから得られるこの話題を話そうと思います」と概要を伝える。

 

・紹介したデータをどう解釈して処方に反映させるか?

→意見を求められるのは得意なタイプ。話し始めるとどんどん話が飛びながら逆プレゼンテーションになったりもする。

新薬の紹介などでは、すでにデータを論文などで見ていて向こうから「このデータはね…」と話し始める。

マーケ用語でいう「アーリーアダプター」になるのはまさにこのタイプの医師。

 

・講演会の演者等、意見を発信する場を積極的に設ける。

→正に適任。医師の「やりたいこと」と、メーカーの「やって欲しいこと」が合致する。積極的に依頼すべき人。

もしポテンシャル大の施設で黄色タイプの医師がいた場合、全国への影響も考えて早期スピーカー育成を始めるべき。

 

・アポイントは取りやすく接しやすいと感じる。面会は苦にならないが、聞き出したいことの半分も聞けない。

→会話の主導権は向こうにある。

「今日はこのテーマで〜」とこちらが話すや否や、「そういえば〇〇大の先生も講演してたね。

あの先生今度留学するんだってね?自分もそこに留学してたんだけどあそこのラボは〜」と、これでタイムアップ。

必ず聞かなければならないことは箇条書きにして見せても良いかもしれない。上から順に勝手に話してくれるだろう。

 

余談

ちなみに僕はこのタイプなので、

あえてデメリット部分だけに抜粋して書くならば(バイアスかかっているかもしれないので)、

「人の話を聞くのが下手で、計画的にコツコツ積み上げるのは苦手、時間にルーズ」

というタイプです。心当たりはあります。精進いたします。

 

緑色タイプの医師に対するアプローチとその特性

このタイプは受動的な性格で、率先して誰よりも活力的に行動をするタイプではありません。

環境の変化を嫌い、安心感を常に求めています。

面会中は笑顔も見られ、おっとりとしてよく話を聞いてくれるタイプの先生です。

ただアプローチはしやすい医師なのですが、「少し様子見で…」と処方が出るには時間がかかります。

このタイプの先生は医局内にも敵がいないタイプであるので、様々な情報が集まっているという点もあります。

 

緑色タイプの医師を例にとりアプローチを考えてみましょう。

・文献や説明会にてデータ紹介時は、「安心感」を感じてもらえる点を重視して紹介する。

→副作用の発現頻度、対象薬と比較してどんな副作用が「多い」のか、

その副作用に対する対処法も合わせて紹介して、「何が起きても大丈夫」を作る。

緑色タイプは「次に何が起きるか」を知りたい。

 

・データの解釈、実際どんな人に処方するか?意見をもらえても、実際処方するかは別問題。

→使い慣れた薬剤の方が安心感が高い。他の先生はなんて言っているのか?ガイドラインの掲載状況は?

部長は処方しているか?など

 

・処方が伸び悩み困っていることを伝えると、色々考えてくれるのもこのタイプの先生。

→人の話を聞くタイプで、相談にも乗ってくれる。もし直接話を聞きにくい先生がいれば、

このタイプの先生から情報をもらうことも可能。もちろん感謝も忘れずに。

あんまり聞きすぎると関係が悪くなるので注意。優しいので教えてはくれるが、距離を置かれる。

 

・講演会の演者も引き受けてくれることが多い。講演内容もメーカー寄りにしてくれる(強く依頼すれば)

→自ら進んで行動するタイプではないため、例えば特定の医師とコネクションが欲しいというニーズがあった場合、

その結びつきを強化するような会の企画などは喜ぶかもしれない。

依頼されたことは基本対応してくれるタイプなので、スライドコントロールしやすい。

 

・「優しい」タイプの先生が多く、面会中笑顔も出て雑談の話も聞いてくれる。データ紹介でアポももらいやすい。

→全メーカーに同様の対応をしていると認識しよう。つまりいろんな人からデータを聞いていることになる。

処方するかどうかは、「自分の中でこの治療法が最も安心である」と思った薬剤を使う。

(副作用が少ないだけではなく、対処が確立している、他の医師も使っている、

新規副作用の情報をメーカーが一早く提供してくれるなど、総合的に判断して)

 

青色タイプの医師に対するアプローチとその特性

確実な道を選んでかなり慎重になるタイプであり、新薬に飛びつくことを好みません。

このタイプの医師を処方増の突破口とするのはかなり難しいですが、

情報を集め、整理し、確固たる考えに基づき処方している薬剤は変わりにくいという側面もあります。

新薬に飛びつく場合は、「この治療法が明らかなメリットであると納得のいった場合」、

ピカ新と呼ばれるような薬剤はこの傾向があります。

また質問に対して、「多分こうだと思います」のような回答はNGです。曖昧さを嫌い信頼を失います。

 

青色タイプの医師を例にとりアプローチを考えてみましょう。

・文献、説明会スライド等データ紹介時は、対象とした疾患、メソッド、得られた効果、発現した副作用とその対処まで事細かに紹介する。

→疑問が残ると気になってしまいます。欲張らず一つのテーマをきっちりと紹介するのが良い。

とにかく事前準備を徹底し、想定質問への答えとその資料も持参すること。

 

・意見を求められることは得意ではないので、「このデータについてご意見を…」と言われても困ってしまう。

→情報を与えて判断してもらう。その判断結果までは聞かないで良い(不快に感じる、なぜそんな質問をするの?)

 

・自身の考えを外に出すことはしたくないので、講演会演者を依頼しても喜ぶどころか不快に感じてしまいがち。

→企画を活用して関係構築はあまり得策ではない。そもそも関係構築すること自体が困難。

関係構築をしたところで、処方するに納得のいく事実(エビデンス)がないと処方はしない。

講演を引き受けてくれたとしても、いわゆる我々が考えるような「良いストーリー」にはなりにくい。

なぜなら我々の良いストーリーは「都合の良い」ストーリーであり、穴がありすぎるからだ。

 

・説明会の際、スライドを見ないで資料内のパンフ、文献をずっと読んでいる。

→あなたの説明に興味がないわけではなく、目についた文献が気になって隅から隅まで読みたいのだ。

また人(=あなた)の解釈よりも、文献に書かれているという「事実」を大事にする。

 

・いつも面会中怒ったような表情、雑談等のアイスブレイクに対する反応も鈍い。

→表情は気にしない。アイスブレイクも不要、要件を丁寧に伝え話題展開する。

怒っているわけではなくそれが「普通」なのだ。

プライベートの話題も厳禁。今日面会する要件に集中して話題展開をしよう。

複合的にタイプが現れることもある

必ず一つだけのタイプが現れるとは限りません。

その人の置かれた立場、役職、経験等で変わってくることがあり、

大抵は隣のタイプの影響を受けやすいとされています。

例:Dタイプが色濃く、iタイプの要素も持つ、など。

 

例えば人との言い争いを避けたい、若干優柔不断タイプの人が、この度昇格してマネージャーに。

日常生活の行動からはS=Steadiness「安定」と判定された方がいたとしましょう。

彼は管理職として、数多くの判断(ディシジョンメイキング)を行わねばなりません。

当然チームメンバーとの衝突もあるでしょう。しかし決断を下すのがすべき仕事です。

そうなるとDiSC分析でいうD=Dominance「主導」タイプの側面が現れることがあります。

 

上記のような事例は会社だけではなく、当然我々の顧客である病院内でも起きうることだと思いませんか?

・前任の部長が突然退職したため、急遽医局No.2の先生が部長に繰り上がった

・中堅で活躍されていた先生が、勉強のため国内留学してがんセンターへ異動した

・少し気難しい先生が、親の後をついで開業をした

立場、役職、仕事内容が変われば行動も変わります。

一人一人の性格は変わらないものの、そのポジションに合わせて行動、振る舞いは変わるのです。

そうであれば、その行動ニーズを満たすようなアプローチができれば、

自然と受け入れられやすいのではないでしょうか?

 

まとめ

・人間はその行動特性から4つのタイプの分類されると考えられている

・タイプ別に効果的なアプローチをすれば、より処方への道は近づくかも?

・なんかうまくいかないな、という医師は、自分と正反対のタイプなのかもしれない(気にしない)

処方してもらうということを念頭に置いたアプローチを考えると、

爆発的処方増に大きく影響するのは赤色、黄色のタイプの医師でしょう。

しかし医局内の医薬品の評価、MRとしての評価を下支えしてくれるのは緑色タイプの医師で、

思いがけない方向性のアドバイスをもらえたりするのが青色タイプ(研究を依頼するのにも適しているかもしれません)。

MR活動に煮詰まっている方は、少し方向性変えてアプローチしてみてはいかがでしょうか?